日本人コンテンポラリーダンサー平原慎太郎氏、スペインのダンスカンパニーProvisional Danzaに参加

9月22日から10月11日まで、マドリードのSala Teatro Cuarta Paredで開催されていたダンス・フェスティバル「Territorio Danza 2014」。その最後の3日間を飾ったのは、振付家カルメン・ワーナー主宰のダンスカンパニーProvisional Danzaの作品「Tell Me」である。

マドリードにあるCuarta Pared劇場のレジデントカンパニーであるProvisional Danzaには、日本人のコンテンポラリーダンサー平原慎太郎氏が参加している。同氏は、日本の文化庁の新進芸術家海外研修制度により、今年6月までこの地でワーナー氏に師事していた。

10月9日「Tell Me」公演初日、午後9時前。開場して観客が会場に入ると、ステージにはすでに4人のダンサーたちがいた。酒瓶とグラスの置かれた大きなテーブルと6脚の椅子。そして、四角くかたどられた4つの明かり。窓から光が差し込んでいるようだ。ダンサーは、それぞれ離れた場所で、椅子に座ったり、椅子の傍に立っていたりする。各々が視線を合わせず、我関せずという態度でありながら、そこには緊張感が走り、独特な空気を醸し出している。すでに物語は始まっているようだ。観客席から舞台を「見下ろす」と、ダンサーたちの姿、動き、それぞれの関係性をまさに「俯瞰」しているような気持ちになる。

冒頭、4人のダンサーの中心、ぽっかり空いた空間に、平原氏が登場するところから作品が動き出す。彼の体の動きには、痛いくらいの「主張」を感じた。彼の演じる青年の神経質さ、不安、焦り、温かさ。それを、体を通して叫んでいるようだ。彼が自由自在に操る、ひとりの人間の嘘偽りない感情を、観客は真正面から受け止めなければならない。

この作品は、男性3人、女性3人のダンサーで構成される。平原氏以外は全員スペイン人。20代が1人、30代が3人、それ以上が2人という、比較的年齢層の高いメンバーである。

空間から逃げ出して外に取り残されてしまった物はすべて、感情と自省を引き起こす理由となる。
物の動きがない時、その長い休止は、すべてが出現するのとは対照的に不穏な時間となる。
無を観察し、何もなく何も起こらない場所に、不確実なものを作り上げる。
そして、反対に、私たちは空間の内側、現実に物事が起こっている場所を見逃しているのだ。

ー　Provisional Danza 「Tell Me」作品紹介より

6人が同じような動きで踊っている瞬間は数えるほどだ。舞台上の全く別々の場所で各々のダンサーが踊っているので、観客はすべてを追うことはできない。焦点を合わせられないのだ。これがすなわち、私たちは現実に起こっていることを見逃しているということなのかもしれない。日常的な風景――お酒を飲んだり、新聞を読んだり、煙草を吸ったりという風景である――に織り込まれながら、普段は内に秘めている、あるいは隠している、人に対する愛憎や無関心さを剥き出しにしてダンサーたちは踊る。時々、紐で絞め殺そうとしたり、ナイフを向ける場面まである。

平原氏はこの作品を「個性のぶつかり合い」と表現した。このカンパニーには、お互いの関係性を感じとることに優れているダンサーが多いのだと同氏は言う。作品「Tell Me」には、いわゆる意識的な「振付」と思わせるような動きは少なく、ダンサーたちがお互いの動きに連鎖して、まるで即興で踊っているかのように見える。この作品では、元々各ダンサーの即興の踊りを基礎に、カルメン・ワーナー氏が動きを選択し、皆で作品を作り上げていく側面が強いらしい。それにしてもダンサー達が、体全体で訴えるような表現を、まるで日常的な仕草であるかのように軽々と行っているのには改めて驚いた。