「マンガとアニメ」By ルイス・アルフォンソ・アントン
日本人にとっては身近なマンガとアニメをスペイン人の視線から見るとどうなるか。
この記事を読んで頂いて興味深いと感じて頂ければ幸いです。
「マンガ」とは日本のコミックスの事である。しかしながら、この語源を正確に把握しようとすると歴史を数世紀遡る必要がある。初めてこの言葉を使用したのは浮世絵のマスター葛飾北斎だ。有名な『神奈川沖浪裏』(かながわおきなみうら)の作者が1814年に、侍の日常や庶民の生活を表した、後に15巻からなる北斎漫画の呼称として「漫」(「気の向くままに」又は「楽しい」)と「画」(絵)からなるこの言葉を使用した。その数十年後の1852年に、それまで二世紀以上にわたり続いていた鎖国が終わり、日本は海外諸国と通商を開始し、西洋からの海兵等の流入により国外の文化や習慣が伝わったが、その中に初期のコミック風の印刷物も含まれていた。
1905年に初めて、カラー印刷による風刺漫画「東京パック」が、世界最初の「漫画家」であると位置付けられている北澤楽天の手により出版された。その後もマンガの出版は少しずつ伸びて行き、現代の日本では数えきれないほど多くのマンガのシリーズが、週刊、月間、隔月刊、半月刊等の印刷版漫画雑誌として出版され、またインターネット上ではデジタル版を入手することが出来る。それらの作品はその後170ページから240ページ程の「単行本」として、雑誌版よりもコンパクト且つより良い紙とインクを使って刊行されている。
驚くべきことに、日本で販売されている本10冊のうち4冊はマンガが占めている。これは日本ではマンガは単なる趣味の域を超えるものである事を示しており、又その販売量は単なる収集家の仕業ではなく、マンガが日本文化の重要な一部分であり、且つアイデンティティの一部ともなっている事がわかる。これほど大量の、且つ多様なマンガが存在するのはその為である。
マンガの種類は、それがどの年齢層と性別に向けて提供されているかで、容易に区別することが出来る。勿論あるマンガがある任意の層に向けて提供されている場合でも、結果としてはどのようなタイプの読者でもそれらを楽しむことが出来る。
マンガをどの年齢層・性別に向けて描かれているかで分けるとすると下記となる:
子供:年少の子供向け
少年:少年向け
少女:少女向け
青年:青年男性及び成人男性向け
女性:青年女性及び成人女性向け
どの年齢層・性別に向けて描かれているかと、そのマンガのジャンルが何かは別の話である。どの年齢層・性別を主な対象としているかは、その内容がどのジャンルとなるかには強い影響は与えず、対象としている層がどれであるかに拘わらず共通しているマンガの特徴も存在する。そのジャンルは、文学、映画や劇と同様に、大変多様である。既に申し上げたように、マンガの種類は大変多い。
「アニメ」とは、日本のアニメーションによる作品の事である。「アニメ」と言う言葉は英語の Animation から来ている。
アニメは、テレビでの定期番組や映画、又はOVA等、いろいろな方法によって公開されている。
テレビのマンガシリーズは通常毎週放送され、各回のエピソードは20分から25分である。季刊の新作もあり、1クール毎に提供されるが、番組によっては1クール以上になるものや、定期放送として根付いているものもある。これらの多くは印刷版で出版されるマンガ作品を元にしたもので、テレビ放送による人気の獲得と印刷版の販売促進もその目的の一つである。一方テレビ用に作成されるオリジナル作品のシリーズもある。
1クールの放映が終了するとそれらの作品の多くはビデオとして販売され、その売れ行きによってその作品の次のクールが制作されるかどうかが判断されることが多い。
映画は90分から120分の長編として制作される。映画はテレビ番組よりも通常長いこと及び、テレビ放送用よりも高画質が求められることから、その制作のコストはテレビ用番組よりも高い。新作は通常映画館にて上映され、その後ビデオのフォーマットで販売されることが多い。
そして最後にOVAがある。OVA とは、オリジナル・ビデオ・アニメーションの頭文字の略で、それらの多くはそのマンガのオリジナルストーリーとは異なる内容のものであったり、特別番組のエピソードを適応したものであったり、あるマンガ作品の複数冊のエピソードを纏めたものであったりする。それらは通常45分から60分の長さで、新規の追加のストーリーとしてビデオ作品としてのみ販売されることが多い。最近ではこれのインターネット版である ONA (オリジナル・ネット・アニメーション)と呼ばれるものもある。
アニメ作品は日本のビデオ市場の売り上げの三分の一を占め、大変大きなビジネスとなっている。
マンガとアニメは国境を越え世界中でその人気を誇るが、国によってもその人気度は異なる。その意味では、アメリカ合衆国、イタリア、フランス等での日本のマンガ作品の市場は羨望に値するもので、異なる年齢層・性別向けの多様なジャンルの多くの作品が出版され、販売されている。
残念ながらスペインではそのように多様なジャンルの作品は販売されておらず、収集家向けの市場であると言われる場合もある。だがスペインのコミックスの市場では、プラネタ・デアゴスティニ・コミックスの編集長であるダビッド・エルナンド氏が、ニコニコニュース向けのインタビューで最近語ったように、日本のマンガが最も売れている。
上記の状況にも拘わらず、スペイン市場は数年前に大変良い状況を迎え、特に市場に於けるマンガの種類数の観点ではその後も状況は好転し、スペイン市場でこれまで多勢を占めていた少年マンガ以外の年齢層・性別に向けた、スペインではまだ知られていない多くの素晴らしい漫画家たちの作品を出版しようとする新しい複数の出版社の出現がその証明となっており、それらの活動は市場にも受け入られている。
スペインのアニメ業界は余り良い状況とは言えない。ライセンスの販売数は最低レベルを記録しており、テレビでは子供向けの二つの放送局のみがアニメの放映を行っている。過去に「ドラゴン・ボール」、「キャプテン翼」、「セーラームーン」、「スレイヤーズ」を始めとする多くのアニメ作品が、朝食から昼食の時間帯まで満たしていた時代とは比べ物にならない。
アニメの視聴方法として、テレビに取って代わりインターネット上で「クランチロール」等のプラットフォームによって、日本でのテレビ放映後短時間でオリジナルバージョンのサブタイトル版を見ることが可能になっている。これはマンガの出版社にとって、どの作品のライセンスを購入するかを決める為の重要な指針になっている。あるアニメの人気が出ると、高い確率でそのマンガのスペインでの翻訳出版権が販売される。「進撃の巨人」がその良い例で、アニメがスペインで大人気となったお陰で、その後この作品のマンガの出版も行われた。
マンガとアニメの影響で、スペイン人の多くが日本の文化と日本語の勉強に興味を持っていることは特筆に値する。国外の文化との触れあいはそれがどのような文化であっても大変刺激的なものであるが、日本の文化のように豊潤で独自性のあるものの場合は更に特別であると言える。