スペイン・リアリズム絵画の異才、磯江毅展―広島への遺言―

 

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その圧倒的な細密描写を、深い精神性と避けがたい死への洞察によって独自の画風へと昇華させた磯江毅(1954~2007)。
絵画修業のため19歳で単身スペインに渡った磯江は、やがてスペイン美術界で最も注目される一人となった。

2005年には広島市立大学教授に就任し広島の美術界に足跡を残しつつも53歳の若さで他界した礒江。独自の死生感と彼しか成し得ない緻密な描写は、凝縮された時間を感じさせ、観る人を深い思索へと誘う。

この展示会では、磯江の初期から絶作まで、代表作約100点を通して、彼の芸術の軌跡をたどるとともに、その稀有な画業を堪能することができる。

 

 
〜 広島県立美術館よりの展覧会構成と内容のご説明 〜

第一章:リアリズム(写実)との出会い

1974年、19歳の磯江はヨーロッパで本物の西洋美術に触れたいと、プラド美術館のあるスペインへ渡ります。
プラド美術館でドイツのアルブレヒト・デューラー、15世紀フランドル派の画家たちの緻密で静謐ながら「内なる力を秘めたリアリティー」に感銘を受けたことが、後の絵画表現の原点になったと磯江は語っています。

磯江はほぼ独学で「マンチャ」と呼ばれるスペイン伝統のデッサン技術を究める一方で、プラド美術館で模写に取り組んで北方ルネサンス絵画の高度な技法と精神性を自分のものとします。
そして「内なる力を秘めたリアリティー」を現代に再現しようと絵画制作に取り組みます。

この章では磯江がスペインに留学する直前の1974年、19歳で描いた素描から、プラド美術館で取り組んだ古典名画の模写や画壇で注目されるきっかけとなった「シーツの上の裸婦」、スペインの古典絵画を研究したボデゴン(厨房画)まで、磯江がスペインでの評価を確立していった約20年間の制作の歩みをご紹介します。

 

 

第二章:ものの命を描く

磯江は、スペインで画家として高く評価されるようになった1990年代、絵画の「内なる力」を表現することに全力を傾けます。

磯江は、表現するのは自分ではなく、対象物自体であり、その物が表現している姿から重要なエレメントを読み取り、抽出することこそ、「内なる力」を見つけ出すことだと考えます。
そして、角膜に受動的に映る映像を根気よく写す行為ではなく、空間と物の存在のなかから「摂理」を見出すことが自分の仕事と考えるようになります。

磯江毅《新聞紙の上の裸婦》1993 - 94年

 磯江毅《新聞紙の上の裸婦》1993 – 94年

磯江はこの「摂理」を見極めるため、長い時間、対象物と向き合います。

たとえば、描いているうちに腐ってしまう葡萄の粒を取り除いては、新しい葡萄を買ってきてそっくりな粒を選んで接着し、また描き続けたと言われています。
それほど磯江がこだわって描き出そうとしたものは、有機物、無機物を問わず、対象の持つ「内なる力」即ち“生命”そのものだったのではないでしょうか。

磯江毅《マルメロ》2004-05年

 磯江毅《マルメロ》2004-05年

磯江は対象物を徹底的に見てその「内包された生命」、いわば生の「摂理」を描き出そうとしていたと思わざるを得ないのです。この章では、ものの「摂理」を追求した苦闘の10年間の作品をご紹介します。

 

 

第三章:滅びを描ききる

活動の拠点を日本にも設けた磯江は、2001年に《Vanitas(虚栄)と私》という作品を完成します。
ヴァニタスとは虚栄と訳される通り、地位や名誉はうたかたであり、命には限りがあると説く西洋絵画の伝統的な主題ですが、磯江はそのテーマを自画像とともに描いたのです。

磯江毅《バニータスⅡ ―闘病―》2006-07年

磯江毅《バニータスⅡ ―闘病―》2006-07年

それまでの10年間、「内なる生命」とその摂理を描いてきた磯江は、対象物の命の有限を感じ、存在そのものも何時かは滅びるものであること強く意識していたのでしょう。
いわば「滅び」の摂理をヴァニタスを通して描こうとしたのではないでしょうか。

磯江毅《薔薇と緑青Ⅱ》2003年

 磯江毅《薔薇と緑青Ⅱ》2003年

そんな矢先の2002年、磯江の体にガンが見つかります。

しかし、磯江の制作活動は衰えを見せませんでした。万物が逃れることができない“死”という運命を自らの問題として描き続けたのです。

2005年には広島市立大学教授に就任し、これまでの創作活動を通じて到達した絵画技術・哲学を若い芸術家たちに遺そうと、熱心に指導しました。

磯江毅《鰯》2007年

 磯江毅《鰯》2007年

磯江の絶作となった《鰯》は、白い皿に食べ尽くされた鰯が乗っているだけのシンプルな構成ですが、その画面からは不思議と虚無感ではなく、静謐な穏やかさが感じられます。

死もまた「摂理」と受容した磯江の悟りの境地がかいま見える作品です。

この章では、2001年から2007年まで、「内なる力」の滅び、死を自らの問題として描ききった磯江の世界を紹介します。

 

 
礒江 毅(いそえ つよし、1954-2007)略歴


1973年   大阪市立工芸高等学校図案科卒業
1974年   スペインに渡り以後マドリードに定住
1974〜76年 デッサン研究所「ペーニャ」にてスペインアカデミズムのデッサン、美術協会で人体デッサンを学ぶ
1975〜77年 プラド美術館にて15世紀フランドル派絵画の模写を行い技法の研究に努める
1981年   バルセロナ伯爵夫人賞展(当時スペイン最大のコンクール)にて名誉賞を受賞
1983〜87年 この頃からマドリードのリアリズムグループ展に精力的に参加するようになる
1989年   「存在:14人のリアリズム巨匠展」に出品
1991年   「スペイン美術は今―マドリードリアリズムの輝き」(高島屋)でスペインの画家として紹介される
1992-95年  マドリードインターナショナルアートフェア「ARCO」に出品。注目を集める
1992年   「美しすぎる嘘、現代リアリズム展」にスペインの作家として参加(’97も)
1994年   「リアリズムスペイン現代美術」画集刊行記念展出品
1996年   「両洋の眼」展出品(’01、’03も)
1998年以降 東京芸術大学美術学部非常勤講師
2000年以降 広島市立大学美術学部非常勤講師(2005年以降教授)
2003年   「存在の美学」展に参加(’05、’07も)
2007年   9月27日逝去

 

 
Information_ja
スペイン・リアリズム絵画の異才 磯江毅 ―広島への遺言― 展

会場:広島県立美術館
住所:〒730-0014 広島市中区上幟町2-22
TEL:082-221-6246
WEB:http://www.hpam.jp/

会期:2015年3月25日(水)から5月24日(日)まで
   会期中無休
   会館時間:9:00〜17:00(3月25日は10:00開館)
   *金曜日は20時まで。入館は閉館30分前まで。

料金:一般 1,200円(1,000円)
   高・大学生 900円(700円)
   小・中学生 600円(400円)
   *カッコ内は前売り・20名以上の団体料金

 

 
関連イベント


講演会(広島県立美術館友の会共催)
日時:4月11日(土) 13:30~15:00 [受付開始 / 30分前]
演題:「磯江毅 ―スペイン・リアリズムを超えて―」
講師:木下亮(昭和女子大学大学院生活機構研究科教授)
会場:地下講堂(定員/先着200名)
※ 聴講無料。事前申込不要。


ギャラリートーク
毎週金曜日
11:00~(3月27日、4月3日、4月10日、4月17日、4月24日、5月1日、5月8日、5月15日、5月22日)
18:00~(3月27日、4月10日、4月24日、5月8日、5月22日)
場所:3階企画展示室
※ 当館学芸員が展覧会をご案内します。
※ 要入館券。展示室入口にお集まりください。
※ 各回とも30分程度


ウェブレポーター大募集
受付日時:3月27日(金) 17:00~19:30
受付場所:3階ロビー
対象:ホームページ、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどで、本展PRにご協力いただける一般の方。
※ 実施当日に限り、本展にご招待。

 

 
主催:広島県立美術館、広島ホームテレビ、中国新聞社
後援:中国放送、広島テレビ、テレビ新広島、広島エフエム放送、FMちゅーピー76.6MHz、エフエムふくやま、尾道エフエム放送、FMはつかいち76.1MHz、FM東広島89.7

広島ホームテレビ 開局45周年記念事業
協賛:広島県信用組合
企画協力:彩鳳堂画廊