[マドリード] 日本&スペインのユニットアーティストKitazu & Gómez個展『ANCHOVYCENTRISM』
日本人画家の喜多須めぐみとスペイン人画家ヘスス・ゴメスによる個展『ANCHOVYCENTRISM (アンチョビ中心主義)』が、マドリードのギャラリーGalería Blanca Soto Arteにて2022年4月9日まで開催されている。
日本とスペイン、異なる文化出身の二人が共同で手がけるアートプロジェクト『ANCHOVYCENTRISM (アンチョビ中心主義)』については、マドリードの大学で美術史と現代美術を教えているMarius Christian Bomholt氏がによる解説を紹介する。
アンチョビ中心主義 (ANCHOVYCENTRISM)
皮肉で悲しい話かもしれませんが、人間中心の世界観を克服するための最も強力で革新的な研究によると、人類は地球に「いつまでも消えない」という非常に大きな痕跡を残してしまいました。新しい地質時代、人新世について語り始めたのです。もちろんロマンチックな思想家、または過去数十年間に増加しているディープエコロジストによって「人間中心主義」に終止符を打つ試みはすでにありました。しかしそれは、オブジェクト指向存在論やフラットオントロジーという画期的な提案などがされるに止まりました。結局、私たちは人間と人間の間の基本的な平等を受け入れる準備はできている、大衆としてのその生活をするのに役立つ平等、それは昔の君主制よりも千倍優れていますが。
これは、アーティストのキタズ&ゴメスがアートプロジェクト「アンチョビ中心主義」を始めた動機でありそれを続けるモチベーションにもなりました。なんと、彼らは人間の視点をアンチョビに置き換えてしまったのです。この展覧会は2つの主要なテーマに分かれています。一つは小さな宇宙を想起させるミクロワールドをキャンバス上に表現したもの、もう一つはズグラッフィートという古代の技法に触発された彼らの最新作です。これら二つのテーマの接点は、陽気なアンチョビの存在の中にあります。二人のクリエイターはそのアンチョビを通して彼らの表現を追求しようとしています。
喜多須めぐみとヘスス ゴメスの作品では、人間の存在は単なる背景として扱われています。ズグラッフィートのシリーズでは見事なリアリズムで細部まで表現されているため、鑑賞者はキャンバスと石の違いを見分けられないかもしれません。そこに描かれた外壁は人工的というよりむしろ小さな住人の為に自然にできた一種のアドベンチャーパークになっています。同じことが2人の芸術家の身体にも起こります。彼らの体が作品に現れる時は様々な、そして一風変わった角度から、アンチョビとその友人達の優しい目から、非常に接近して見られています。
ジョン・ラスキンはアンチョビの専門家とは見なされていません。しかし、偉大な英国の学者は環境保護主義者であるだけでなく、自然の喜びに精通し海の生物の愛好家でもあったようです。ラスキンは「節度の美徳」という短い論文の中で彼の思想を語る上で多くの人々が自由の象徴として喩えてきた鳥ではなく魚を用いたのです。
「どんなに偉大で強力な人間も、魚ほど自由であったでしょうか。常に何かするべきことがあり、或いはしてはならないことががある。その間に魚は自分が好きなことを何でもしているでしょう。」
もちろん、私達は芸術の偉大な愛好家であり芸術家でもあったラスキンに尋ねることはもう出来ません。しかし、彼が生きていたらきっとブランカ ソト ギャラリーでのキタズ&ゴメスの素晴らしい展示について意見を述べたに違いありません。その理由は魚の自由は無限であり、それが二人のアーティストによって証明されているからです。
Marius Christian Bomholt
KITAZU & GOMEZ / 喜多須 & ゴメス
公式サイト | Instagram
スペイン人のヘスス・ゴメスはスペイン北部の小さなアトリエで制作をスタートし、日本人の喜多須めぐみは東京にある美大で美術コースを修了しようとしていた。2001年ベルリンのアートシーンに魅力を感じた二人は知り合う。その当時、ゴメスは旧東地区の建物に焦点を当てて描き、喜多須は木製家具を使って実験的なインスタレーションをしていた。
友人として意見を交換し互いの作品についてアドバイスをし合い、打ち解けた二人は共同制作の可能性を模索する。アイデアの出し方や仕事手順、ワークスペース等を合わせて決めて行くのに始めのうちは激しくぶつかったが、愛情と絆によって、また弱さを知り強さを認める事によってこれらのハードルを克服。自由さと二人分のスペースの必要性や、アーティストでごったがえす大都市のアートシーンや知的な情報をうるさく感じ、ベルリンより南フランスの美しい谷あいの村に制作の場を移す。
異文化の二人の物の見方はアートに対する考え方や取り組み方にも表れている。喜多須のルーツを求めフランスを離れ日本の四国に移り住む。そこでは彼女の家族が野菜を作り若布を養殖している。ゴメスにとって始めてヨーロッパ以外の文化にどっぷり浸かる事になる。彼らは田舎にアトリエを構え伝統的な日本の生活をも経験する。
2年後スペインを訪問中に友人に勧められてマドリードの中心にある、20世紀初頭スペイン人画家によって建てられた美しい家に住む機会を得る。日本を後にした二人は天井の高いアトリエに落ち着き、新たな熱意で再び制作を始める。活気ある都市に帰って来た利点としてプラド美術館があった。二人はいつでも好きな時に自分たちのペースでベラスケスやゴヤ、ボッシュといった巨匠の作品をじっくり見る事ができ、行く度に新しいインスピレーションを得た。周囲から距離を置いて制作する彼らにとって外の世界とコンタクトを失わない事は重要だった。時にはアトリエで小さな展示をして作品を見た人の反応を観察した。
10年後の今もマドリードの家に住み制作を続けている。彼らの作品は疑う余地なく個々の考え方、感覚や傾向が融合した物である。ただし、もはや二人は16年前にベルリンで知り合った当時のままではない。アートの制作がお互いの人生を変え、人生経験は制作に反映されて来た。彼らが作品を作る事は生き方と制作を合わせた独自のメタファーを作ることに他ならない。それはそのメタファーを有形化する事であり、二人の感性が出会うミーティングポイントでもある。
会期:2022年2月26日〜4月9日
火〜金曜 12:00〜14:00 / 16:00〜20:00
土曜 11:00〜15:00
会場:Galería Blanca Soto Arte
住所:Calle Almadén 16, 28014 Madrid