出迎えてくれた神父らを囲んでロレト修道院の前で記念撮影

 出迎えてくれた神父らを囲んでロレト修道院の前で記念撮影

 

 
四世紀前に仙台藩からスペインを訪れた、支倉常長を中心とした慶長遣欧使節。
日本スペイン交流400周年を記念して、今年10月に仙台市民のグループがこの使節の足跡を辿り、スペインの各地を訪問しました。このグループに同行した仙台市博物館の佐々木徹氏より、この旅の様子について御寄稿頂きましたので、ここにご紹介致します。
支倉が捲いた種が現代の日本とスペインの交流に繋がった例の一つとして、お楽しみ下さい。

 

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2014.10.7(火)


出発前の壮行式の様子 — 場所: 仙台空港

出発前の壮行式の様子 — 場所: 仙台空港

仙台市と仙台国際交流協会(SIRA)が実施する「慶長遣欧使節スペイン訪問400周年記念 市民訪問団」が、7泊8日の予定でついに動き出します。

前日の大型台風の影響も回避でき、仙台市とSIRAの関係者も含め、みんなが無事に仙台空港に集まりました。
メンバーは一般公募の団員(市民)22名と事務局4名の計26名。これに日本から同行する添乗員1名、スペインから同行する1~3名の現地コーディネータが加わりますので、総勢30名ほどでの旅路となります。

400年前の支倉常長ら慶長遣欧使節一行も、ヨーロッパでは30名弱のメンバーで各地をめぐっていました。そして、使節一行がスペインに上陸したのが1614年10月5日。実は私たちの旅は、400年前と大変似たような状況で進められたわけです。

それではいよいよ出発です!

 

 
2014.10.8(水) コリア・デル・リオ


コリア・デル・リオの支倉常長像

コリア・デル・リオの支倉常長像

活動の初日、市民訪問団はコリア・デル・リオという町にやって来ました。
400年前、支倉ら使節一行は、港町サンルカル・デ・バラメダからグァダルキビル川を遡ってこの町に上陸し、歓迎を受けたことが知られています。

この町は、ハポン(日本)という姓をもつ、遣欧使節の子孫ともいわれる人たちが多く暮らしていることでも有名です。
同地到着後、今回のコリア及びセビリア訪問の調整等に大変ご尽力いただいた駐スペイン日本大使館名誉領事らと合流し、はじめに市民訪問団はコリア市庁舎に表敬訪問しました。そこでコリア市長へ仙台市長の親書を手渡し、お互いの友好関係を深めました。歓迎昼食会でさらに交流を深めた後、当地訪問の記念に支倉常長銅像の近くで桜の植樹を行いました。

コリア市の皆さんやハポンさんたちとの交流夕食会は大変盛り上がりました — 場所: コリア・デル・リオ市内のレストラン

コリア市の皆さんやハポンさんたちとの交流夕食会は大変盛り上がりました — 場所: コリア・デル・リオ市内のレストラン

また夜には、日本スペイン交流400年記念・東日本大震災追悼のために行われたサッカーの親善試合(コリア・デル・リオ vs レアル・ベティス)にご招待いただきました。
試合に先立ち、選手・観客みんなで黙祷を捧げました。被災地仙台から来た私たちにとって、遠く離れたスペインの人々が祈ってくれた場面は、特別な思いがしました。

白熱した試合を観戦した後には交流夕食会が行われ、市長や市議会議員、サッカー協会の方々、そしてハポンさんたちの熱い歓迎を受けました。市民訪問団がそれぞれ日本から準備してきた日本の遊びや文化などを紹介したり、日本の歌を合唱するなどして交流を深めました。

 

 
2014.10.9(木) セビリア


セビリアの大聖堂とヒラルダの塔

セビリアの大聖堂とヒラルダの塔


セビリアは、慶長遣欧使節一行を先導した影の立役者、宣教師ルイス・ソテロの出身地です。同市は使節一行を終始支援し続けたことでも知られています。市民訪問団は、この地でも大変有意義な時間を過ごしました。

セビリア市庁舎での表敬は、500年ほど前から残っている部屋(現在の議事堂)で行われました。この部屋は、支倉ら使節一行の同市訪問時にもあった場所であり、私たち訪問団にふさわしいとしてセビリア市側が選んでくれた場所でした。ここで市民訪問団は、仙台市長の親書をセビリア市副市長へ手渡し、両市の歴史的な縁を確かめ合いました。

伊達政宗書状を熱心に見入る団員ら — 場所: セビリア市文書館

伊達政宗書状を熱心に見入る団員ら — 場所: セビリア市文書館

この地で慶長遣欧使節ゆかりの資料を特別に閲覧させてもらったことも、きわめて貴重な機会でした。インディアス文書館では徳川家康の書状や息子秀忠の書状など、セビリア市文書館ではセビリア市に宛てた伊達政宗書状を見ることができました。

昨年秋に仙台市博物館で開催した特別展「伊達政宗の夢―慶長遣欧使節と南蛮文化」では、上記の徳川家康書状をお借りして展示し、多くの方々に見ていただきました。まさかこのような形で再会できるとは思いもよりませんでした。徳川家康・秀忠書状は、仙台市博物館所蔵の「支倉常長像」などとともにユネスコの世界記憶遺産に登録され、伊達政宗書状も本来であれば直接目にすることが難しい資料ですので、どちらも大変貴重な資料と言えます。

またその後、世界遺産のアルカサル(宮殿)やカテドラル(大聖堂)も見学しました。どちらも支倉ら使節一行が訪問した場所であり、アルカサルは彼らの宿所でもありました。
市民訪問団は、400年前の風景に思いを馳せながら、表敬訪問や見学を行いました。

 

 
2014.10.10(金) エスパルティーナス、コルドバ


この日の行程は、エスパルティーナスにあるロレト修道院とイスラム文化が色濃く残ることで有名なコルドバの見学でした。
ロレト修道院は、ローマから戻ってきた支倉常長が1年3ヶ月にもわたり滞在したといわれる修道院です。主君伊達政宗の使命を何とか成し遂げようと、彼はここで粘り強く外交交渉を続けました。主祭壇にある聖母マリア像は1384年、その近くの壁にあるキリスト像は1607年につくられたことが知られており、支倉らも目にしたことが想定されます。どちらも間近で見ることができたのは貴重な経験でした。

その後、バス移動中には、現地コーディネータによる「スペイン史講座」に聞き惚れながら(それにしても現地コーディネータの方々の各所での解説は本当にすばらしかった!)、一路コルドバへと向かいました。
コルドバもまた、支倉ら使節一行が歓迎を受けた訪問地の一つです。当時の市長自らが盛大な歓迎会を開き、もてなしたという記録が残されています。同じく使節一行が訪れたと記録されるメスキータ(世界遺産)などを私たちも見学しました。
400年前の支倉ら使節一行の行程を追体験しながら、この日も充実した時間を過ごすことができました。

 

 
2014.10.11(土) マドリード


マドリードのデスカルサス・レアレス修道院

マドリードのデスカルサス・レアレス修道院

この日はマドリード市内での見学が中心でした。はじめに、デスカルサス・レアレス(王立フランシスコ会跣足派女子修道院)を訪問しました。

支倉常長は、日本を出発して1年半ほどを経た1615年2月17日、スペイン国王フェリペ3世や王女、多くの貴族らにも見守られながら、この修道院の中の教会堂で洗礼を受け、キリスト教徒となりました。彼の人生にとっても大きな転機となったはずです。
内部にある33の礼拝堂をはじめ、特別に聖具室を案内してもらい、支倉も見た可能性が高い南蛮漆器なども見学できました。支倉が洗礼式を行った教会堂も見学しました。

王宮の前で記念撮影

王宮の前で記念撮影

その後は王宮を訪れ、武器庫博物館などを見学しました。
支倉は 1615年1月30日、スペイン国王に謁見することを許されて王宮へ向かい、国王の面前で政宗の使命を演説する機会を得ました。スペインを旅する使節一行にとって、ハイライトとでも言える場面です。

私たち市民訪問団は、現在の王宮のすがたを眺めつつ、スペイン王室に伝来した武器・武具を多数展示する武器庫博物館でフェリペ3世の甲冑などを見学しました。
上記の南蛮漆器や甲冑もまた昨年秋の特別展でお借りし、展示していましたので、思わぬ再会に感慨も一入でした。

 

 
2014.10.12(日) マドリード、トレド


市民訪問団のスペインで活動は最終日を迎えました。
祝日のイスパニアデーに当たるこの日、マドリード市街には多くの人々が集い、軍事パレードなどが行われていました。
私たちははじめにスペイン王室の絵画コレクションを有するプラド美術館を訪問しました。ベラスケスやエル・グレコ、ゴヤらの名画のほか、支倉らが謁見したスペイン国王フェリペ3世の肖像画、彼の側近で当時政治の実権を握っていたレルマ公の肖像画なども見学できました。レルマ公は、支倉常長が書状を送ったり、洗礼式では代父になるなど、フェリペ3世とならんで大変ゆかりの深い人物です。

トレドの全景

トレドの全景

その後、世界遺産となっている古都トレドに向かい、支倉ら使節一行が訪れたとされるカテドラル(大聖堂)やその向かいにある大司教館などを見学しました。使節一行はこの地に1日ほどしか滞在しなかったようですが、トレドの市議会は彼らの宿泊の件について便宜を図るよう決議し、彼らを迎え入れる準備を進めていたことが知られています。

その夜、市民訪問団の「さよなら夕食会」がマドリード市内のレストランで開催され、旅の思い出を振り返りながら、その意義を確かめ合いました。「今後もスペインの皆さんと交流を深めていきたい」。そんな声も随所に聞かれました。

 

 
2014.10.14(火)


解散式の様子 — 場所: 仙台空港

解散式の様子 — 場所: 仙台空港

行きも帰りも台風の進路に冷や冷やさせられはしましたが、結局、前日まで日本を襲っていた大型台風の影響もなく、私たち市民訪問団は仙台に無事到着しました。
仙台空港では解散式を行い、スペインでの日々を懐かしみつつ、お互いに感謝し、ねぎらい合いました。

400年前に支倉常長らがまいた国際交流の種をさらに花開かせ、未来の国際交流へと橋渡ししようともくろんだ私たち市民訪問団のスペインの旅は、ここに終わりを告げました。

この1週間は本当に充実した日々でした。各所でご尽力いただいた関係各位に心からお礼申し上げます。

そして皆さま、大変お疲れさまでした!

文・写真:仙台市博物館 佐々木徹

 

 

 
dic2014_sendai_Sasaki寄稿者紹介


仙台市博物館 学芸員 佐々木徹

 
仙台市博物館
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